女性の尿閉は頻度が低く、年間で10万人あたり3〜7人程度と推計されています。
ただし見過ごされ、診断されていないケースが多いとも指摘されており、高齢女性の3人に1人には残尿の増加がみられるというデータもあります。
女性で問題になりやすいのが、骨盤臓器脱です。膀胱や子宮が下がってくると尿道が折れ曲がり、水道ホースを踏んだような状態になって流れが悪くなります。
子宮筋腫や骨盤内の腫瘤が外から尿道を圧迫することもあり、便秘も同じ機序で排尿を妨げます。
出産も無視できません。経腟分娩のあと、14%の女性に排尿の障害が生じたという報告があり、吸引や鉗子を使った分娩では20.6%まで上昇しました。
多くは一時的ですが、骨盤内の手術後や、麻酔・帝王切開のあとに排尿が止まることもあります。
さらに、長く糖尿病を患っている女性では末梢神経障害から膀胱の感覚と収縮力が落ちます。尿路感染で尿道の粘膜が腫れる、抗ヒスタミン薬や抗コリン薬を飲んでいる、といった要因も重なります。
高齢者の尿が出にくくなる原因
年齢を重ねると、膀胱そのものが変化します。筋肉の割合が減って線維成分が増え、収縮力が落ちる。同時に「たまってきた」という感覚も鈍くなり、脳が膀胱の充満を認識しにくくなります。
押し出す力と、押し出せという命令の両方が弱まるわけです。
そこへ高齢者ならではの事情が重なります。複数の診療科から多くの薬が出ていれば、排尿を妨げる成分が紛れ込む確率は上がる。前立腺肥大、便秘、糖尿病、パーキンソン病や脳卒中の後遺症も加わります。
やっかいなのは、痛みや尿意が鈍いために自覚のないまま進行する点です。慢性の尿閉は、残尿300mLを超える状態が6か月以上続き、2回以上確認されたものと定義されています。
この間、本人は困っていないのに膀胱は伸び切り、腎臓に尿が逆流して水腎症や腎機能の低下を招くことがあります。
若い人でも尿が出にくくなる?
10代・20代
頻度は低いものの、若い世代でも起こります。この年代でまず考えるのは、通り道の詰まりよりも神経や機能の問題です。
多発性硬化症や脊髄の病気が背景に隠れていることがあり、腰痛や下肢のしびれを伴う場合はとくに注意が必要になります。
若い女性に特有の病態として、フォーラー症候群が知られています。閉塞も神経疾患もないのに尿道の括約筋が緩まなくなり、尿が出せなくなるもの。
10代後半から30歳前後に発症しやすく、約40%に多嚢胞性卵巣症候群を合併します。発症率は年間10万人あたり0.2人ときわめてまれですが、原因不明の尿閉を起こした若い女性では必ず候補に挙がります。
日常的な引き金もあります。市販の鼻炎薬や酔い止めの成分、手術後の麻酔、ひどい便秘、性感染症による尿道の炎症。いずれも原因が取り除かれれば戻るものです。
30代・40代・50代
この年代の男性で目立つのは前立腺炎と尿道狭窄です。前立腺肥大は高齢者の病気という印象がありますが、変化そのものは40代から始まっており、50歳を超えた男性の半数には組織学的な肥大がみられます。
「まだ若いから前立腺は関係ない」とは言い切れません。
女性では、出産や骨盤内手術のあとに排尿の障害が残るケース、骨盤臓器脱が始まるケースがあります。男女に共通するのは薬剤性と糖尿病。
健診で血糖を指摘されたまま放置している方は、排尿の変化を神経障害のサインとして受け止めてください。
尿が出にくいときに考えられる病気一覧
ここまでに挙げた原因を、病名として並べておきます。
- 前立腺肥大症
- 前立腺炎(急性・慢性)
- 前立腺がん
- 尿道狭窄
- 膀胱結石、尿路結石
- 尿路感染症、尿道炎
- 神経因性膀胱(糖尿病、脳卒中、パーキンソン病、多発性硬化症、脊髄損傷など)
- 馬尾症候群(腰椎椎間板ヘルニアなどによる神経の圧迫)
- 骨盤臓器脱(膀胱瘤、子宮脱)
- 子宮筋腫、骨盤内腫瘍
- フォーラー症候群
- 便秘、宿便
- 薬剤性の排尿障害
このうち馬尾症候群は、時間との勝負になる病気です。腰痛やお尻・会陰部の感覚の低下、足の力が入らない、便が出にくいといった症状が尿閉と同時に現れたときは、すぐに医療機関へ向かってください。
尿が出にくいときの対処法
自分でできることから整理します。最初に見直したいのが薬です。市販薬を含め、飲んでいるものをすべて薬剤師や医師に確認してもらう。
ただし自己判断でやめるのは避けてください。持病の治療薬であれば、代替を検討するのは医師の役割です。
便秘の解消も直接効きます。直腸に便がたまれば膀胱の出口が圧迫されるため、便通が整うだけで排尿が楽になる人がいます。
カフェインやアルコールを控える、夕方以降の水分をとりすぎない、体重を管理する、骨盤底筋を鍛えるといった生活面の工夫は、前立腺肥大症の初期対応としても推奨されているものです。
排尿のしかたを変える手もあります。焦らず時間をかける、前かがみになる、一度出し終えてから少し待って再度いきむ(二段排尿)。
残尿を減らせば、感染や結石のリスクも下がります。
ただし、まったく出ない・下腹部が張って痛いという状況では、これらは通用しません。膀胱が過度に伸びた状態が24時間続くと筋肉に不可逆的な損傷が起こり、たまった量が1,500〜2,000mLを超えると回復が難しくなります。様子を見る場面ではないと考えてください。
市販薬や漢方薬で改善できる?
前立腺の悩みに対して、ノコギリヤシ(セレノア・レペンス)のサプリメントを試したことのある方は多いと思います。結論から言えば、期待できる根拠は乏しいのが現状です。
32件のランダム化比較試験、のべ5,666人を統合したコクランレビューでは、ノコギリヤシはプラセボと比べて症状スコア、最大尿流率、夜間の排尿回数のいずれも改善しませんでした。
通常量の2倍・3倍を投与しても結果は変わっていません。前立腺肥大症の治療全般をみても、質の高いランダム化比較試験で有効性が証明されたサプリメントは今のところ存在しない、というのが現在の評価です。
漢方薬についても、排尿困難そのものを改善するという十分な検証が行われているとは言いがたく、「まず市販品で様子を見る」という順番は理にかなっていません。
むしろ注意したいのは、市販薬が症状を悪くする側に回るケースです。風邪薬や鼻炎薬に含まれる抗ヒスタミン成分や血管収縮成分は、まさに尿を出にくくする作用を持っています。
排尿に不安がある人がこれらを飲み、急性尿閉で救急外来に運ばれるという経過は決してまれではありません。
病院を受診したほうがよい症状
次に当てはまる場合は、その日のうちに受診してください。
- 尿がまったく出ず、下腹部が張って痛い
- 発熱を伴う排尿困難(前立腺炎や腎盂腎炎の可能性)
- 血尿がある
- 腰痛、足のしびれ、会陰部の感覚低下、排便障害を伴う
急ぎではないものの、早めに泌尿器科へ相談したほうがよいのは、勢いの低下や残尿感が数か月続いている、尿路感染を繰り返す、夜中に何度も起きる、といった状態です。
放置した先にあるのは、膀胱の筋肉の変性、繰り返す感染、膀胱結石、水腎症、腎機能の低下。早く見つかれば回復の見込みは十分にあり、逆に長く伸び切った膀胱は元に戻りません。
保険診療対応
当院では尿が出にくい・排尿トラブルの診療を行っています
尿が出にくい症状は、前立腺肥大症や尿道狭窄、膀胱の病気など、さまざまな原因で起こります。
「年齢のせい」と自己判断せず、排尿しにくさや尿の勢いの低下、残尿感などが続く場合は、お早めにご相談ください。
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何科を受診すればいい?
まずは泌尿器科です。男性も女性も、排尿の悩みを診るのは泌尿器科であり、「女性が行くのは場違いでは」とためらう必要はありません。近年は女性泌尿器科や、婦人科と連携した専門外来も増えています。
例外もあります。骨盤臓器脱がはっきりしている女性は婦人科でも対応できますし、腰痛や足のしびれを伴うなら整形外科・脳神経内科が窓口。尿がまったく出ずに下腹部が痛むときは、診療科を選んでいる場合ではなく、救急外来へ向かってください。
病院ではどんな検査をする?
泌尿器科の検査は、体への負担が小さいものから順に組み立てられます。
問診では、国際前立腺症状スコア(IPSS)などの質問票を使い、7つの質問に点数をつけて症状の重さを数値化します。0〜35点で評価し、10点以上が治療を検討する目安です。
続いて尿検査で感染や血尿、糖の有無を調べ、超音波を当てて残尿量を測ります。おなかに当てるだけの検査で、痛みはありません。
専用の便器に排尿して勢いを測る尿流測定では、最大尿流率が13mL/秒以上あるかどうかが一つの基準になります。
血液検査では腎機能(クレアチニン)と血糖を確認し、男性では必要に応じてPSA(前立腺特異抗原)を測定します。
残尿が多い場合や腎機能の低下がある場合は、腎臓の超音波検査で水腎症の有無を調べる流れ。ここまでで原因が絞り切れないときに、膀胱鏡や尿流動態検査といった精密検査へ進みます。
尿が出にくいに関するよくある質問(FAQ)
Q1:尿が出にくい原因にはどのようなものがありますか?
尿が出にくい原因は、前立腺肥大症や尿道狭窄、尿路結石など尿の通り道が狭くなる病気、膀胱の働きの低下、糖尿病や脳卒中などによる神経の異常、薬の副作用などさまざまです。原因によって治療法が異なるため、泌尿器科で検査を受けることが大切です。
Q2:男性の尿が出にくい原因で多い病気は何ですか?
男性では前立腺肥大症が最も多い原因です。そのほか、前立腺炎、前立腺がん、尿道狭窄、尿路結石、膀胱結石なども原因になります。急に尿がまったく出なくなった場合は急性尿閉の可能性があり、早急な受診が必要です。
Q3:女性の尿が出にくい原因にはどのような病気がありますか?
女性では骨盤臓器脱、子宮筋腫、尿路感染症、神経因性膀胱、薬の副作用などが原因になります。出産後や更年期以降にも排尿しづらくなることがあり、症状が続く場合は泌尿器科を受診しましょう。
Q4:高齢者の尿が出にくくなるのは加齢だけが原因ですか?
加齢によって膀胱の働きは低下しますが、それだけではありません。前立腺肥大症や糖尿病、脳卒中、便秘、服用中の薬などが重なって起こることが多く、放置すると腎機能に影響する場合もあります。
Q5:尿が出にくいときは市販薬や漢方薬で改善できますか?
市販薬や漢方薬だけで改善できるとは限りません。特に風邪薬や鼻炎薬に含まれる抗ヒスタミン薬や交感神経刺激薬は、かえって尿を出にくくすることがあります。症状が続く場合は自己判断せず、医療機関へ相談してください。
Q6:薬の副作用で尿が出にくくなることはありますか?
はい。抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、一部の抗うつ薬や抗精神病薬、筋弛緩薬、オピオイドなどは排尿障害の原因になることがあります。処方薬や市販薬を服用中の場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
Q7:若い人や20代・30代でも尿が出にくくなることはありますか?
あります。若い方では神経の病気や尿道炎、薬の副作用、ストレス、便秘などが原因となることがあります。女性ではフォーラー症候群などまれな病気が原因となる場合もあります。
Q8:尿が出にくく、お腹が張る・下腹部が痛いときはどうすればよいですか?
尿がまったく出ず、下腹部の張りや強い痛みがある場合は急性尿閉の可能性があります。放置すると膀胱や腎臓に障害が及ぶことがあるため、救急外来または泌尿器科をすぐに受診してください。
Q9:尿が出にくいときは何科を受診すればよいですか?
男女ともに、まずは泌尿器科の受診がおすすめです。女性でも泌尿器科で診療を受けられます。骨盤臓器脱や婦人科疾患が疑われる場合は、婦人科と連携して診療を行うこともあります。
Q10:尿が出にくい状態は医療用語で何といいますか?
尿が出にくい状態は「排尿困難」と呼ばれます。さらに尿がまったく出なくなった状態は「尿閉」といいます。症状が続く場合は原因を調べるため、早めに泌尿器科で検査を受けることが大切です。
Q11:尿が出にくいときはどのような検査を行いますか?
問診や尿検査に加え、超音波による残尿測定、尿流測定、血液検査などを行います。必要に応じてPSA検査や膀胱鏡検査などを追加し、原因となる病気を詳しく調べます。
Q12:尿が出にくい症状は自然に治りますか?
薬の副作用や一時的な便秘などが原因で改善することもありますが、前立腺肥大症や神経の病気などが原因の場合は自然に治らないことが少なくありません。症状が続く、悪化する、血尿や発熱を伴う場合は早めに泌尿器科を受診しましょう。
まとめ
尿が出にくいという症状は、薬を一つ変えるだけで解決するものから、手術で確実に治せる病気まで、幅広い原因を含んでいます。
共通しているのは、放置して自然によくなる種類の症状ではないという点。気になり始めた今が、いちばん選択肢の多い時期です。
尿が出にくいと感じたら、一人で悩まず、れいわクリニックまでお気軽にご相談ください。
この記事の監修・執筆医
医療法人社団涼美会 理事長
関口 知秀
過活動膀胱や頻尿などの一般泌尿器科診療をはじめ、性感染症(性病)検査・治療、前立腺疾患や泌尿器がんの早期発見まで幅広く対応。
患者様一人ひとりの症状や生活背景に寄り添い、丁寧な診察とわかりやすい説明を大切にしています。
新宿・渋谷の3拠点にて、土日祝日や夜間診療にも対応し、お忙しい方でも受診しやすい体制で質の高い医療を提供しています。
※本ページはれいわクリニックの医師が監修しています。