前立腺肥大
前立腺肥大症(BPH)は、中高年の男性によく見られる前立腺の病気です。この症状は年齢とともに進行する傾向があり、多くの場合、排尿に関連する問題が発生します。ここでは、前立腺肥大の原因、症状、診断方法、治療法、生活への影響について説明いたします。
前立腺肥大とはどのようなものなのか
前立腺と言っても、そもそもどのような病気なのでしょうか。ここでは、前立腺という器官はどのようなものなのか、その説明や前立腺肥大についてご紹介していきます。
前立腺とは男性特有の器官
前立腺は、男性特有の器官であり、膀胱のすぐ下、尿道を取り囲むように位置しています。大きさに関しては、栗の実ほどの大きさで、形状も栗に似ています。
この器官の主な役割は、精液の一部を作り出すことです。前立腺が分泌する液体は、精子を保護し、運動を助ける役割を持ち、男性の生殖機能にとって重要なものです。
また、前立腺は加齢とともに変化し、中高年以降になると肥大しやすくなります。この肥大が進むと、尿道を圧迫して排尿トラブルを引き起こすことがあります。
前立腺自体は健康な状態では特に意識されることはありませんが、生活の質に影響を与えることがあるため、定期的な受診で状態を確認することが大切です。
前立腺肥大とは
前立腺肥大は、男性に特有の前立腺という器官の細胞が増えることにより起こります。この肥大自体は「良性」で、命にかかわるものではありません。
この増殖を、医学的には「過形成」と呼びます。細胞そのもののサイズが大きくなるのではなく、細胞が過剰に増えることで前立腺全体の体積が増加します。
大きくなった(肥大した)前立腺は、尿道を圧迫するため、排尿困難(排尿をしにくい)、残尿感(排尿後にまだ排尿したい感じがする)、頻尿(頻繁に尿意をもよおす)などの問題が起こります。
なぜこのような症状が起こるのかというと、前立腺は膀胱のすぐ下にあり、尿道を囲むように位置しているためです。
そのため、前立腺肥大は良性であり、癌(がん)とは異なりますが、放置すると生活の質に大きな影響を与えてしまいますので、違和感を感じたら直ぐに受診することが大切です。
前立腺肥大の原因やリスクファクター
前立腺肥大には明確な原因またはリスクファクター(前立腺肥大を引き起こす確率を高める因子)があるのでしょうか。ここでは、一般的に言われている原因やリスクファクターを説明していきます。
1.加齢:加齢に伴いホルモンバランスが変化することが主な原因とされています。どの年齢の男性でも起こりますが、特に50代の男性に多く見られます。
2.ホルモンの影響:最近の研究では、テストステロンとジヒドロテストステロン(DHT)という男性ホルモンの影響が主な要因とされています。
3.遺伝:家族に前立腺肥大の方がいらっしゃった場合、前立腺肥大になるリスクが高まる可能性が示唆されています。
4.生活習慣:最近の研究では、喫煙や肥満もリスク要因として指摘されており、食生活や運動習慣の影響も指摘されています。
前立腺肥大の症状
前立腺肥大は「細胞の増殖による前立腺の全体的な大きさの増加」が原因です。この点が癌(がん)のような異常増殖とは異なる「良性」の特徴です。このことを踏まえた上で前立腺の症状を見ていきましょう。
排尿に関する症状(排尿障害)
これらは尿道が圧迫され、尿がスムーズに流れなくなることが原因です。
主な症状
1.排尿開始の遅れ
○ 尿意を感じても、尿が出始めるまで時間がかかる。
○ (理由)尿道の狭窄(せまくなること)により尿の流れが妨げられるため。
2.尿の勢いの低下(尿勢低下)
○ 排尿時の尿の流れが弱くなる。
○ (理由)前立腺が尿道を圧迫することで、尿の出口付近で流れが細くなるため。
3.尿の途中で途切れる(排尿中断)
○ 一度排尿が始まったのに、自分の意思で無く途中で止まってしまう。
○ (理由)圧迫によって膀胱内の圧力が十分に維持できないため。
4.残尿感
○ 排尿後に膀胱が空になった感じがしない。
○ (理由)前立腺肥大による圧迫で、膀胱内に尿が残るため。
5.尿閉(完全に尿が出ない)
○ 自分では排尿しようと思っても(力んでも)尿が出ない
○ (理由)前立腺が極端に肥大し、尿道を完全に塞いでしまっているために起こります。
膀胱の過敏性に関する症状(貯留障害)
膀胱(ぼうこう)に尿をためる機能が低下し、頻繁(ひんぱん)に排尿が促される状態です。これらの症状は膀胱の筋肉が過敏に反応して過剰に活動することが原因です。
主な症状:
1.頻尿(ひんにょう)
○ 昼間にトイレに行く回数が増える(通常より8回以上)。
○ (理由)膀胱が完全に空にならないため、頻繁に尿意を感じる。
2.夜間頻尿(やかんひんにょう)
○ 夜中に何度も目が覚めてトイレに行く。
○ 膀胱に残った尿が刺激となり、睡眠中でも排尿を促される。
3.尿意切迫感(にょういせっぱくかん)(切迫性排尿(せっぱくせいはいにょう))
○ 急に強い尿意を感じ、トイレを我慢できないため、もらしてしまうことが多い。
○ (理由)膀胱が過敏になっているため。
4.尿漏れ(切迫性尿失禁)
○ 強い尿意を感じた直後に尿が漏れる。
○ (理由)膀胱の筋肉が勝手に収縮してしまうため。
症状の進行メカニズム
症状は最初から上記のような症状が現れるわけではありません。ここでは、前立腺肥大が進むにつれてどのような段階を経ていくのかをご紹介いたします。
1.初期段階
○ 軽度の排尿困難(勢いが弱い、頻尿など)から始まる。
○ (理由)膀胱が尿を排出するために、筋肉を過剰に収縮させることで症状を補おうとするため。
2.中期段階
○ 膀胱筋の過剰な収縮により、頻尿や切迫感が顕著になる。
○ (理由)膀胱が疲弊してきて、尿を完全に排出できなくなるため。
3.末期段階
○ 尿閉や膀胱内に多量の残尿が発生し、尿路感染や腎機能の低下を引き起こすことがある。
前立腺肥大の症状は進行性であり、放置すると悪化する可能性が高いため、早期の診断と治療が重要です。
上記のような症状や何かおかしいなと感じたら、当院までお早めにご連絡ください。
前立腺肥大と生活の質
前立腺肥大は、特に夜間頻尿などが原因で睡眠の質が低下し、日中の集中力や体調に悪影響を与えることにより、集中力の低下や業務効率の悪化が見られる患者さまが多くいらっしゃいます。
患者さまの中には、排尿障害により外出をためらう場面も増え、社会生活にも支障が生じる場合や、長期的な膀胱の機能の低下のため、腎臓にも負担がかかることがあります。
また、患者さまだけでなく、そのご家族にとっての心理的負担も大きいため、早期診断・早期治療がとても重要です。
診断方法
ここでは、前立腺肥大の診断方法をお伝えします。診察や検査などの際、痛みなどはありませんので、ご安心ください。
前立腺肥大や癌(がん)はどの年齢の成人男性でも起こりうる可能性があります。
ご家族に前立腺がんの既往歴がある場合や、一般的な検診において、肥大や癌(がん)のリスクが高いと考えられる場合には、40歳前後代から検査をおすすめします。
1.問診
症状や病歴に関する問診を行います。もし、ご家族や親族の方で前立腺に関する病歴があれば、お知らせください。
医師は前立腺肥大の診断基準に基づいて問診を行っていきます。
※喫煙歴または生活習慣など、当たり前のことですが、非難するようなことは一切ございませんので、安心してありのままをお伝えください。
2.血液検査
前立腺特異抗原(PSA)レベルの測定は前立腺癌(ぜんりつせんがん)の可能性も考慮するために行われます。
PSA(Prostate-Specific Antigen)とは、前立腺から分泌されるタンパク質の一種であり、血液中に存在しています。このPSA値を測定することにより、前立腺の健康状態を把握できます。
PSA値の基準
● 通常値:4.0 ng/mL以下(年齢によって基準が変わる場合あり)
● 注意が必要な値:4.1~10 ng/mL
○ この範囲は「グレーゾーン」とされ、前立腺肥大や炎症、前立腺がんの可能性があるため追加の検査が必要です。
● 10 ng/mL以上:前立腺がんのリスクが高いとされ、精密検査が推奨されます。
医師の判断により、患者さまによっては超音波検査が必要となる方もいらっしゃいます。
超音波検査とは、前立腺のサイズを正確に測定するための非侵襲的な検査方法です。痛みも無く短時間で終了いたします。
前立腺肥大の治療法
前立腺肥大は「良性」ですので、当院では薬物治療が主な治療方法となり、症状を緩和し、排尿を改善することを目的とします。
薬物療法は、軽度から中程度の症状に対して特に効果的で、多くの場合、以下の3つの主要な薬剤が使用されます。
α1遮断薬(α1ブロッカー)
○前立腺と膀胱頸部の平滑筋を弛緩させることにより、尿の勢いを改善し、残尿感や排尿困難を軽減させます。
○作用が速く、使用開始後数日以内に効果を実感できることが多いです。
主な薬剤
● タムスロシン(ハルナール)
● シロドシン(ウロレック)
● ナフトピジル(フリバス)
副作用
● 低血圧やめまい(特に立ち上がったとき)。
● 鼻づまりや逆行性射精(射精時に精液が膀胱に逆流する)。
5α還元酵素阻害薬
○テストステロンをジヒドロテストステロン(DHT)に変換する酵素を抑制し、前立腺の縮小を促します。
○前立腺の大きさを縮小し、尿道への圧迫を減少できるため、長期使用により排尿症状の進行を抑制することができます。
○効果が現れるまで数カ月かかることがあります。
主な薬剤
● フィナステリド(プロスカー)
● デュタステリド(アボルブ)
副作用
● 性欲減退(せいよくげんたい)、勃起不全(ぼっきふぜん)。
● 血中PSA値を下げるため、前立腺がんスクリーニングでの評価に影響を与える。
ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬
○血管を拡張し、前立腺と膀胱の平滑筋を弛緩させ、尿の流れを改善します。
○勃起不全(ED)を併発している患者さまに特に有効です。
主な薬剤
● タダラフィル(ザルティア)
副作用
● 頭痛、顔面紅潮、消化不良。
● 血圧低下(特に硝酸薬を併用している場合は注意)。
補助的な薬剤
抗コリン薬
○ 膀胱の過剰な収縮を抑制し、頻尿や切迫感を改善します。
○ 主な薬剤:ソリフェナシン(ベシケア)、フェソテロジン(トビエース)。
○ 副作用:口渇、便秘、視力のかすみ。
β3受容体作動薬
○ 膀胱の筋肉を弛緩させ、頻尿や切迫感を軽減。
○ 主な薬剤:ミラベグロン(ベタニス)。
○ 副作用:高血圧、動悸。
薬物治療以外にも、外科的治療(外科的治療の目的は、前立腺の一部を取り除くことで尿道への圧迫を解消し、排尿を改善すること)を稀ですが行う場合もございます。
予防と生活改善
生活習慣の改善は、前立腺肥大の予防や症状管理において非常に重要な役割を果たします。これらの対策を日々の習慣に取り入れることで、長期的な健康を維持することが可能です。
食生活の改善
1.抗酸化作用のある食品を摂る
トマト(リコピンが豊富)、緑黄色野菜、ブルーベリーなどを積極的に摂取することにより、抗酸化作用が前立腺の健康維持すなわち、前立腺肥大防止に役立ちます。
2.脂肪分を控える
飽和脂肪酸の多い食品(脂身の多い肉、加工食品)を減らし、オリーブオイルや魚に含まれる良質な脂肪を選ぶようにしましょう。
また、亜鉛(カボチャの種、牡蠣)、セレン(ブラジルナッツ、魚介類)は前立腺の健康に良い影響を与えるとされています。
それ以外には、アルコールやカフェインの過剰摂取は膀胱を刺激し、頻尿や排尿トラブルを悪化させることがありますので気を付けてください。
適度な運動
運動は血液循環を良くし、前立腺の炎症を抑える可能性があります。おすすめの運動はウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を週に3〜5回行うことが理想です。
また、ヨガやストレッチも効果的で、ストレス軽減にも寄与します。
反対に避けるべき運動は、サイクリングやツーリングです。自転車やオートバイなど、サドルが前立腺に圧力をかけますので、前立腺肥大と診断されている方は、控えるようにしましょう。
水分摂取の調整
適切な水分摂取は前立腺肥大だけでなく、私たちの健康にも必要です。特に前立腺肥大のかたは、十分な水分摂取で尿路を健康に保つように心がけましょう。
また、極端な水分制限はいけませんが、就寝前の2〜3時間以内は水分摂取を控えることで、夜間頻尿を防止できます。
トイレ習慣の改善
規則正しい排尿を心がけることも予防の1つです。尿意を我慢しすぎないことで、膀胱への負担を軽減できます。
また、毎回の排尿で完全に尿を出し切る習慣をつけることも大切です。そのためには、トイレでリラックスし、できるだけ膀胱を空にするようにしてみましょう。
膀胱を空にするためには、時間を決めた排尿スケジュールを立てるのもおすすめです。頻尿の場合、排尿スケジュールを設定して、トイレに行き過ぎることを避けるようにすれば、徐々に毎回の排尿で膀胱を空にすることができるようになると思います。
定期的な健康診断
前立腺肥大の症状に思い当たるかたや男性で50代に近くなってきたら、PSA検査(前立腺特異抗原)を受けることをおすすめします。PSA値を定期的にチェックすることにより、前立腺の健康状態を把握できます。
また、症状がなくても気になることがあれば診察を受けることが大切です。50歳以上の男性、または家族に前立腺がんの既往がある場合は40歳前後から受診を開始することをおすすめしています。
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